二萬打SS

□Eve 3
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丁度ツリーの正面に座っていたカップルが席を立っていったから、整わない呼吸を戻そうと座った。


「おれ…何してんのかな」


ここに来たら落ち着くと思った。
ヴォルフラムが此処で大切な話があるって言ってきて、ずっと待ってるって…





「でもそれは自分に良いような所しか見てないって事だ」


綺麗事だ。
肝心の現実は何一つ考えていない。

だからこんなにも心の底に痞(つか)えてるものがおれを苦しめるんだ…




「…おい、見ろよアレ」

「えぇ―うそヤダ縁起悪い」

「よりによって今日その表示って…」

「誰かへの告白じゃない?『さよなら』って」

「何それ可哀想―」



浮かれたクリスマスソングの間から段々そんな会話が聞こえてきて、周りを見回したら人々は一様に上を見上げていた。


「…確かにキツいな」



見上げていたのは目の前のビルの電子広告板。
時間区切りで伝えたい相手に愛を告白…とかに使うんだろうが、今点滅してるのは真逆だった。


画面一面に真っ赤なハートがあって、その中にまるで罅が入っているかのように上から下まで枝分かれした模様が映っていた。
誰もが判る失恋のマーク。




「やべ、今だからかマジくるな」


さっきカップルが喋ってたけど、なんだかおれが失恋宣言されてるみたい………で、




「…あれ?でもなんか、違う」



違和感を感じたのはきっとおれが長い間それを見ていたからで…
そしてきっとその罅に見覚えを感じたからだ。



「何かに…似てる、気が」


何だっけ……?



罅にしてはそれは奇妙な柄で。
普通なら先に行く程細くなっていく筈のソレの部分はどれも反対に先にいくと丸い実の様なものが一つずつ付いていた。
そしてハートに取り巻いてる色が判りにくいけど、その後ろの模様……


「ま、…さか」


おれは慌てて首もとに手をやり服の中からあるものを引っ張り出した。
上からの光を反射して輝くそれは、おれが大事にしている透き通ったライオンズブルーの石。
ことり、と小さな重みを感じて手の中の物を見つめる。


「……どう、して」



暗くて判りにくいそれを、掲示板に重なる様に透かした。
すると真っ赤な色が深く透き通った青と交わって、生まれたのは綺麗なワインレッド。
そして距離があるから、おれの石より一回り大きいだけになった掲示板のその、全く同じ柄……



「んで、あるんだよ…」




これはどこにでもある様な柄とは違う。
大切な、大切な石だった。あいつも、これの事は知っていて……


「そんな…筈、あるわけ……ないのに」



でも、もしあれが罅じゃないとしたら……?





「変だな…前、見えねーや」




そんな事をしたら、意味が全く変わってしまう………

さっきあれだけ出尽くしたのに、何でだろう。


目頭がとても、熱くて…




「ごめ、ごめんな…」


相手に届くはずもないのに、行き場のない想いだけが音になってはすぐに周囲に消えて無くなる。
そんな、空虚感。



「今になって解ったんだ。ッこっなに好きだったんだって……」



手遅れなんだって解ってるよ。


でも…




「…もう一度会いたいよ、ヴォルフ」



もう一度会えたなら、おれは気付いたばかりのこのやる瀬ない想いをお前に伝えられただろうか…?



そして伝えられたら…


いつもの様に優しく笑ってくれただろうか……?






(あの時…お前は何て話すつもりだったんだろうな)




あの時の言葉。


いつ聞いても心地良かったお前の声…




































「大切な、話がある」






心臓が、止まるかと思った。



「……う、そ」


信じられない思いで振り返った。
すると、目いっぱいに入ってきたのは…
おれがずっと望んでいた人。




ずっと会いたかった奴が…




「ヴォル、フラム…?なんで此処に…」




大きなツリーを背にして、其処にヴォルフラムは立っていた。

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